April 25, 2007
「おはよ」
私と私の席の斜め前のHさんとは、特に仲が良いわけではありませんでした。私はもともと、気の合う人としか付き合う気がない子供でしたし、クラスの人数も多いので、一年間一緒にいても、喋ったことがない人もいました。
朝、私が教室に入る時、Hさんはいつも、机に突っ伏して寝ていました。確かHさんは、朝早くの送迎バスで、学校に来ていたはずです。
私が自分の席に着き、鞄を机にトンと置くと、Hさんは必ず、むくりと起き上がりました。そして、ちょっと私の方を向いて、何やら、むにゃむにゃと呟くのでした。
私は最初、彼女が何を言っているのか、わかりませんでした。だから、彼女は到着した私に気づいて、寝言を言いながら、顔を上げるのだとばかり思い込んでいました。しかし、ある時、私は、いつも彼女が呟く言葉をはっきりと聞き取ったのでした。
「おはよ」
それに気づいた時、私は、
(しまった!)
と思いました。なぜなら、彼女はいつも私に「おはよ」と挨拶をしていたのに、私は寝ぼけているのだとばかり思って、返事すらしなかったのです! むしろ、寝ている彼女を起こしてはいけないと、なるべく物音を立てないように、教科書を出したりしていたのでした。
彼女のむにゃむにゃが、実は「おはよ」という朝の挨拶だとわかってから、私は、いつものように、彼女がむにゃむにゃと言う度に、「おはよう」と返すようになりました。しかもそれは、一年生もだいぶ過ぎた頃からのことなのです。
Hさん、あなたという人は! 返事をしない私に、よくもめげずに挨拶をし続けたこと! ああ、あなたの「おはよ」に、ずっと返事を返さなかった私を、どうか許してね。
【KNT ROOM】
【ポエトリーリーディング KNT Music】
写真提供【NOION】
投稿者 きつね子たぬき : April 25, 2007 07:03 PM