April 19, 2007
薄紅色の思い出
ある老舗和菓子屋で、短期間のアルバイトをしていた時のことです。私の仕事は、店の前に特設された売り場で、期間限定の和菓子などを売ることでした。その日はとても暑くて、体力が消耗する原因の半分は、恐らく暑さのためだろうと思われるくらいでした。
この仕事は、同じところに八時間立ちっぱなしの仕事でしたので、お客様が来る時はいいのですが、来ない時間帯になると、さすがに退屈になってくるのです。ですから私は、お客様が来ないほとんどの時間を、目の前を行き過ぎる人たちを眺めたりして過ごしていました。
私の忘れられない人は、着物を着た一人のおばあさんでした。その方は、品物を眺めながら、売り場に近づいて来ました。その時、私は彼女が着ている着物を見て、ハッとしたのでした。というのも、その色が薄紅色だったからです。
私の祖母は、ピンクやブルー、鶯(うぐいす)色ですら、着たことがない人でした。そんな色は派手だと、いつもグレーや茶色ばかりを好んで着ていました。時々、母が明るい色の洋服を贈ったりすると、恥ずかしいと言って、箪笥の奥にしまってしまうのでした。そんな祖母を、母はいつも、
「派手だなんて、誰も思わないのに」
と残念そうに呟くのでした。
売り場に近づいて来たおばあさんは、私に二言、三言、何か話しかけたはずです。今ではもう、何を話したのか覚えておりませんが、ただ、彼女の着物があまりにも似合っていたことだけは覚えています。無地の薄紅色の着物に、無地のワインレッドの帯。どちらにも柄はなく、落ち着いた雰囲気を出していました。
私は思いました。
(ピンクのどこが派手なのよ! 目の前のおばあさんは、こんなに上品に着こなしているのに!)
と。
年齢によって、着てはいけない色などないのです。もし、あのおばあさんの着物を祖母に見せたら、いつかは彼女も、ピンクの服を着てくれるでしょうか。
【KNT ROOM】
【ポエトリーリーディング KNT Music】
写真提供【NOION】
投稿者 きつね子たぬき : April 19, 2007 12:29 PM